大判例

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大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)789号 判決 1963年2月13日

判   決

八尾市宮町一丁目六九番地

控訴人

鈴木三次郎

右訴訟代理人弁護士

沢克己

布施市足代町一丁目一四四番地

被控訴人

山本安次郎

右訴訟代理人弁護士

南利三

南逸郎

被控訴人

右代表者法務大臣

中垣国男

右指定代理人検事

松原直幹

法務事務官

小沢義彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事   家

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人等は控訴人に対し各自金一三〇、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済まで年五分の割合の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決と仮執行の宣言を求め、

被控訴人等は主文同旨の判決を求めた。(以下省略)

理由

控訴人の本訴請求に対する判断は、以下に補充訂正する外、原判決理由記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

(中略)

同二一枚目表八行目冒頭より同裏二行目の「相当とする。」までをつぎのとおり訂正する。

「債務者の家屋に対する占有を解いて、債権者の委任する執行吏にその保管を命ずる。債務者の申出があれば、執行吏は現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許さなければならない。」との仮処分に基いて、債権者の委任する執行吏が、執行吏保管の右仮処分の執行をなし、債務者に使用を許した場合、執行吏が直接占有を取得し、使用を許された債務者は執行吏のいわゆる占有機関として事実支配をしているにすぎない(債務者が従前より占有者である場合は間接占有者となるのは格別)、と解するのを相当とする。

したがつて、使用を許された債務者がその使用をやめ目的物件から退去したときは、執行吏は直接占有者として事実支配を確保する処置を採り得るものと解すべきである。

(中略)、同第三行目の「そうでないことが」を「被控訴人山本は前記のように控訴人が立退いたと認められる状態にあつたので、その調査を執行吏松本敬次郎に依頼し、同執行吏は調査の結果叙上のように判断し、保管上必要ありと信じて前記の措置をとつたのであつて、他意はなかつたことが」と訂正する。

よつて、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 中 島 孝 信

判   決

(前略)

〔参照・原判決〕

大阪地方裁判所

昭和三三(ワ)第二五六六号損害賠償請求事件

昭和三六年五月一七日言渡

理由

被告山本が昭和二六年一月一六日大阪地方裁判所に原告に対する家屋明渡等請求の訴訟を提起したが、第一、二審とも家屋明渡請求部分につき被告山本敗訴の判決がなされ、昭和三三年四月二九日(五月一日と訂正)右各判決は確定したこと、本件家屋につき大阪地方裁判所昭和三一年(ヨ)第二六五三号の(原告主張の)現場維持仮処分(以下第一次仮処分と称する。)決定に基きその執行がなされ、その後昭和三三年五月六日松本執行吏が本件家屋を直接自ら占有保管したこと、及び被告山本が本件家屋について布施簡易裁判所に仮処分の申請(同庁同年(ト)第四三号事件)をなし、同月九日「申請人(被告山本)使用のまま執行吏に保管を命ずる。」旨の仮処分(以下第二次仮処分と称する。)決定を得て、松本執行吏にその執行を委任し、同執行吏は右委任に基いて翌一〇日本件家屋に対する仮処分の執行をなし、「申請人(被告山本)使用のままでこれを保管する。」旨の公示を施したことは、被告両名においてこれを認めて争わないところである。

そして、(証拠―省略)を綜合すると次の事実を認定することができる。

前記被告山本の原告に対する家屋明渡等請求訴訟は「同被告が原告に対し本件家屋を賃貸していたところ、原告が賃料の支払を延滞したので、同被告は原告に対し相当の期間を定めてその履行を催告するとともに、若しその期間内に履行しないときは右賃貸借契約を解除する旨の催告並びに条件付契約解除の意思表示をなした。ところが、原告は右期間内にこれが履行をなさなかつたから、右契約は解除せられた。そこで同被告は原告に対し本件家屋の明渡を求めるとともに延滞賃料及び賃料相当の損害金の支払を求める。」というのであるところ、右訴訟提起後昭和三一年一一月二六日大阪地方裁判所において前記認定のように第一次仮処分決定がなされるとともにその執行がなされた(この間を削る。)こと、

ところが、申請人(被告山本)から、被申請人(原告)は既に目的物件である本件家屋から退去して右家屋が空屋になつている旨述べて、現状の調査方の申出があつたので、松本執行吏は昭和三三年五月六日右調査のため本件家屋の所在地に出張した(申請人が松本執行吏に右のように述べて現状の調査方を申出で同執行吏が右調査のため本件家屋の所在地に出張したとの原告の主張事実は被告(等)においてこれを認めるところである。)。ところが被申請人は不在であり、戸締がしてあつて表出入口には施錠してあり、且つ右隣の家屋に住む訴外辻勇において松本執行吏に対し「被申請人は息子の嫁を貰うについて二〇日程前に三輪トラツクに荷物を積んで八尾の方に行つたが、その後も当所え一、二回来て寝泊りしている。八尾の方に転宅してしまつたのではないと思う。」と述べたが、被申請人の行先を数(教と訂正)えなかつたこと(表出入口に施錠していたこと及び右辻勇が松本執行吏に対し「鈴木は転宅したのではない。」旨述べたとの原告の主張事実は被告国においてこれを認めるところである。)。

そこで松本執行吏は証人として訴外峰川政美及び同前川千代治を立会させ、被告山本をも同行させたのであるが、同執行吏が窓や出入口の隙間から内部をのぞいて見たところ何もない状態であり、前記のように表出入口には施錠がしてあつたとはいえ、他の同行者の一人がこぢるようにすると直ぐ戸が開いたので、同執行吏は前記の者等と共に屋内に入り取調をなしたこと。

屋内の状況は次のとおりであつて、松本執行吏の取調の結果もこれと同一であつたこと。(取調をなした、の下からここまでを、「ところ、屋内の状況は次の通りであつたこと」と訂正)

A 階下は階段下の物入れに空瓶が数本、炊事場板の間に鼻尾(鼻緒と訂正)破損のモダンばき一足、玄関及び奥の間に額があるだけで炊事道具は何もなかつた。

B 二階は板の切はし等が十数点あるだけで畳は一枚もなかつた。

C 右ABのような実状で転宅跡に不用品が残されているにすぎないと解するを相当とする現状であつた。

そこで、松本執行吏は本件家屋は既に空屋となつており、被申請人が本件家屋から退去し、その使用を抛棄したものと解し、占有者としての本分を全うするため本件家屋内所在の被申請人所有の前記動産一切を戸外に搬出して空屋とし、爾後同執行吏が自ら右家屋を占有保管することにし、その方法として表及び裏の各出入口並びに窓の戸障子は総て釘付けにした上、仮処分の票目を以て貼付封印し、表出入口の外側中央の鴨居上部に被申請人が現状維持仮処分物件から退去したため、同執行吏が自ら占有保管している建物である旨記載した公示書を釘付けにしておいたこと。なお右戸外に搬出した動産は全て申請人に無償で保管させたこと。

しかし、実際は原告は本件家屋の使用を抛棄し本件家屋から退去したのではなく、息子が結婚し八尾市で家を持つことになつたので、家財道具を殆んど同所に運び、原告も同所で寝泊りして、時々本件家屋に帰つて来ていたこと。

その後、被告山本が布施簡易裁判所に本件家屋について仮処分の申請をなし、同月九日第二次仮処分決定を得て、松本執行吏にその執行を委任し、同執行吏は右委任に基いて翌一〇日本件家屋に対する仮処分の執行をなし、「申請人(被告山本)使用のままでこれを保管する。」旨の公示を施したことは冒頭認定のとおりであるが、右仮処分の執行後被告山本は第一の仮処分申請を取下げたこと。

原告は右第二次仮処分に対し異議の申立をなし、昭和三四年九月頃勝訴判決を得たので、右仮処分は取消されたこと。

以上の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果(及び控訴人本人訊問の結果)中右認定に反する部分は前掲証拠に照らし措信できないばかりでなく、他に右認定を覆えすに足りる証拠がない。

いわゆる不動産に対する占有移転禁止の仮処分において、目的物件を執行吏の保管に付しながら、債務者に引続きこれを使用させる場合における執行吏及び債務者の右目的物件の占有の性質については、学説及び判例いずれもその見解が分かれているところであるが、かかる場合において債務者がその使用を抛棄し右目的物件から退去したときは、目的物件を執行吏の保管に付して債務者の使用を許さなかつたときと同様に、執行吏が直接占有を有することとなり、債務者は間接占有を有するにすぎないものと解するを相当とする。(いわゆる不動産うんぬん以下ここまでを控訴判決の該当部分通り訂正)今本件の場合について考えてみるに、第一次仮処分において松本執行吏が現状の調査をなした結果前記認定のように本件家屋の近隣の者からの聞込み及び本件家屋の内外の状況から考え当時債務者である原告が本件家屋の使用を抛棄して本件家屋から退去したものと判断したのは相当であつて、実際は当時原告が本件家屋の使用を抛棄して本件家屋から退去していなかつたことは前記認定のとおりであるとはいえ、松本執行吏が右のように判断したことについては何等過失がなかつたものといわねばならない。そうすると、松本執行吏が斯様に判断した以上、(この間を削る。)執行吏としての職責上前記認定のような処置を執つたのは適法相当であるといわねばならない。そして、このことは本案訴訟の確定判決の結果如何により差異があるものではなく、本件の場合松本執行吏が前記処置を執つたのは右仮処分申請人である被告山本の敗訴判決が確定した後であることは既に認定したとおりであるが、これを以て松本執行吏の右処置を不適法であるということはできないのである。

原告は被告山本は松本執行吏と共謀して第一次仮処分決定の執行として本件家屋を保管する同執行吏を利用し、仮処分物件の現場(現状と訂正)調査に藉口して事実上家屋明渡執行と同様の目的を企げ(遂げと訂正)ようと企て同執行吏に仮処分物件の現場(現状と訂正)調査を申出で、同執行吏も被告山本の不法な企図を知りながら同被告の申出を容れ、右両名共謀の上同執行吏の前記処置により本件家屋の占有を不法に侵奪したと主張するが、被告山本が松本執行吏に右現場(現状と訂正)調査の申出をなすに際し、前記のような意図を有していたこと及び同執行吏が右申出を引受けるに際し同被告の右意図を知つていたことについては、これを認め得る証拠がないばかりでなく、却つて(証拠―省略)によるとそうでないこと(控訴判決の該当部分通り訂正)が認められる。そして同執行吏の執つた前記処置が適法相当であることは前段認定のとおりであるから、原告の右主張は理由がない。

次に前記第二次仮処分については前記認定のように松本執行吏は被告山本から委任を受けてその仮処分決定どおりの執行をなしたにすぎないのであつて、これ亦適法であるといわねばならない。

原告は被告山本は松本執行吏と共謀して公権力の行使に名を藉りて同執行吏の前記処置についての執行調書の下附を受け、これを退去の疏明方法に用いて既成事実を基礎として布施簡易裁判所に新たな仮処分申請をし、裁判官を欺罔して前記のように第二次仮処分決定を得て、同執行吏にその執行を委任したものであつて、同執行吏はその執行をなしたのであると主張するが、被告山本が右仮処分申請をなすに際しかかる意図を有しおり従つて裁判官を欺罔したこと、及び同執行吏が右事実を知つて執行の委任を受けたことについては、これ認め得る資料がなく、却つて(証拠―省略)に徴するとかかる事実のないことが明らかである。そして松本執行吏の第二次仮処分の執行が適法であることは前段認定のとおりであるから、原告の右主張も亦理由がない。

原告は被告山本の第一次仮処分についての松本執行吏に対する調査の申出、同執行吏のこれに対する処置、同被告の第二次仮処分の申請及び同執行吏の同仮処分の執行は相互に不可欠の牽連関係にある一箇の行為であつて、被告山本及び松本執行吏の共同不法行為であり、仮りにそうでないとしても同人等それぞれの単独不法行為であると主張するが、右主張も理由のないことは前記認定により自から明らかであるからこれを採用できない。

そうすると、原告の被告等に対する本訴請求はいずれも爾余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第七民事部

裁判官 入 江 菊之助

入 江 菊之助

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